災害リスクアドバイザー 松島康生 

用水路や小河川の増水・冠水時の危険性を検証(NHK出演)

NHKの「首都圏ネットワーク (7/17放送)」、「ニュース7 (7/18放送)」で、「冠水・増水から身を守るには」に出演しました。
放送枠に入りきらなかった部分やお伝えきれなかった内容をここで補足説明させていただきます。
ニュースでは埼玉県桶川市で、台風で増水した用水路が道路上まで冠水し、女子高校生が用水路に流されたという報道でした(残念ながら2日後にご遺体で発見されました)。 
このような用水路や小河川での被害事故が毎年あとをたちません。

今回のような被害が再発しないためにも、どうして発生したのかを検証しました。

◆全国に散在する地形上のリスク
現況写真および地形を見ると一目瞭然ですが、用水路付近だけ谷底になっていることが分かります。

Google Map
標高地図(出典:国土地理院)

Google earth

現地写真(道路)東⇒西方向

現地写真(用水路上の道路橋)

現地写真(道路)西⇒東方向

さらに高低差や標高を見ると、ほぼV字型の地形になっていることが分かります。
高低差

標高 (SRTM版)

このような土地は田畑に利用されていることが多く、河川や用水路沿いに一段低くなった低地に見られます。また、このような地形(河岸段丘)は「谷底平野」「氾濫平野」「後背低地」と呼ばれ下記のような同様の地形が全国で見受けられます。

出典:国土地理院

◆冠水時の危険性
現地調査(ヒアリング含む)において、推測される危険性は3つ
道路に掛かる用水路の欄干(防護柵)の堆積物から、多くの枯草類が引っかかっていることから、冠水時は枝木や類の阻害要因があったのではないかと推測されます。


道路上および用水路の底に溜まっている残留物の痕跡から、冠水時は水底に砂利や砂、小石等が水流と共に流されたのではないかと推測されます。

水没した枯草類から流された方向(→矢印:水流の痕跡)をみると、用水路上の道路橋の上流部と下流部に盛土(茶色面)があるため、道路橋付近だけ大量の水の流入があったと考えられます。

特に道路橋の前後は若干低くなっており、かつ傾斜がついているため、その部分だけが非常に強い水流になっていたと推測されます。

 

このことから、冠水時、上流から流入した水流が用水路の欄干(防護柵)辺りに集中したため、この道路橋付近だけが非常に速い水流になっていたと推測されます。
その際に浮遊する枯草類が自転車や足元の抵抗になったことも考えられ、さらには砂、土、小石等が水底に舞っているため、滑りやすい状況にあったと推測されます。


 

◆冠水時になぜ、通行してしまったのか
「これまでの冠水では大丈夫だったから」という経験則や「いつも走っている道だから・・・」、「少しぐらい水量が増しても、水が溜まっているだけだろう」、「遠回りするのは面倒」というような心理が働いたのではないかと推測されます。
過去の冠水・増水事故においても、「自分だけは大丈夫だろう」、「私が被害に遭うはずがない」と思っていた・・・という声が聞かれます。
このことから、本人の意識には正常(安全)性バイアス(思い込みや先入観、偏見という意味)=「根拠のない安心感」が働いてしまったのではないかと考えられます。

◆対策案
ソフト対策
・周辺住民や学校(生徒)への冠水時のリスク説明
・ハザードマップのさらなる周知と啓発

・学校等の通学路であれば、時差通学や休校などの検討
・声掛け(周囲の方が止めたり、警告する必要があります)
・警告看板・・・「冠水した時はキケン、通らない!」「安全な迂回路の表示」

ハード対策
・欄干(防護柵)の延長
・安全保護ネットの設置
・グレーチング柵(スクリーン)の設置
・水位(水深)センサーで通行止めを知らせる

■今後の課題
このような地形条件は日本全国に散在します。上記のような対策を啓発して行く必要性があると考えます。
また、毎年のように田畑の様子を見に行く。河川の状況を見に行く。と言って、被害を受けるケースがあります。本人は大丈夫だという意識(心理状態)のため、他の人が止めたり、警告する必要があります。

さらには、車で走っていると気が付かないような小河川でも、台風や豪雨によって増水し道路冠水することがあります。 下記のように車体やタイヤが河川の流れに負けて流されてしまうこともあります。

 

追伸:その場所に豪雨がなくとも上流部分で局所的な豪雨があった場合も、下流域で冠水することもあることを知っておきましょう。

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松島 康生
この記事を書いた人
災害リスク評価研究所 代表
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